精霊の守り人 新潮文庫版を読んでみました

骨

 我ながら中途半端な時期に手にしてしまったなと思ったのですが、本屋に平積みされているので我慢できずに読んでしまいました。アニメを先に目にしていた為、人物の姿とか情景とか、声とか口調がすっかりアニメ版のイメージで読んでしまいました。バルサの衣装は赤で狩人は例の格好、トロガイ師はあの調子なんて感じで、原作には書かれていない細部も勝手に補完していました。でもこれって私が強烈に影響されやすい体質ってだけではなくて、アニメがそれだけ原作によりそって作られているということでもあるのかなと思いました。
 もともと児童向け(ですよね?)ということもあって、文章にはクセがなく、私がアホみたいに要望していたような悪人や強烈なキャラも出てこなくて、皆よく出来た人たちでそれぞれの立場から最善を尽くし、理解し合い、成長しながら、事態の解決を目指していく話でした。風習や言い伝えなど世界観も違和感なく(食べ物もおいしそうで)、話のテンポも早く、ほとんど一気に読めてしまいました。解説にも書かれていましたが、この話、チャグムが川に転落したところを偶然助けるところから、赤の他人で平民と皇子という身分、さらには母親と子供ほど年の離れた二人が厳しい逃避行へと運命が急転する冒頭が鮮烈なんですよね。最初があまりにもドラマチックだっただけに、その後の展開にこれを超えるような波乱がなくちょっと予定調和的シナリオ(というか卵の思し召し通り)だったかなとは思いました(私も刺激を求めすぎですね)。小説よりもアニメの方が尺が長いと思いますので、原作の要素を余すことなく盛り込んだ上で、それぞれの登場人物の人となりやサイドストーリーを描く余裕が原作よりもあるのではないでしょうか。神山監督は原作を尊重しつつ原作の要素をめいっぱい利用して話をふくらませくれる人というイメージがあるのでアニメ版の方も楽しみになりました。
 今さらベタベタな感想だとは思いますが、ファンタジーやSFは、文章や実写よりもその世界を表現豊かに提示できるという点でアニメの力を感じさせてくれる領域ですよね。もちろん小説の文章からいろいろ想像をふくらませるのも楽しい作業ではありますし、わずか数行で壮大な世界を目の前に出現させる力も文字にはあります。でも、トロガイやタンダが顔をつっこんであの世(ナユグ)の世界をかいま見る情景なんかは、アニメ版で見てなかったらすんなり理解できただろうかと考えたりもして、一枚の絵が、たくさんの言葉を紡いで語られた世界をいともたやすく凌駕してしまう瞬間もあるだろうなとも思いました。最後に出てくる敵やチャグムが同時に見るあの世とこの世の風景は、アニメではどのように見せてくれるのか、これも楽しみです。
 最後に少しネタバレですが、右上に貼りました6話のこのシーンはなにか意味があるのかなとちょっと引っかかっていたのですが、意味があるのですね。OPで羽ばたいてる鳥さんも関係あるのかな?